マテリアルズインフォマティクス特許情報から見える、材料研究の新しい潮流 《第1回:MI特許の全体像》
- 橋本小百合
- 4 日前
- 読了時間: 3分

近年、材料分野においては、従来の「経験と勘」に依存した従来型の研究開発から、「材料科学」と「情報科学」を融合駆使した、“マテリアルズインフォマティクス(MI)”の活用が加速化しています。MIは2011年にオバマ元大統領が発表した「Materials Genome Initiative」が始まりとされています。日本では2014年に「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)」が主導して「マテリアルズ・インテグレーション」が開始。2015にはJSTによる「情報統合型物質・材料開発イニシアティブ」が発足しました。
そこで、ネオテクノロジーは2011 年以後に出願された国内特許情報3,288件を調査。技術者の視点でマニュアル調査し970件を抽出しました。「誰が何を開発しているのか」にフォーカスし、材料別、適用・目的別、AIアルゴリズム別、出願人業種別に整理しました。MI特許情報には、MIをどのように競争力の源泉として活かそうとしているか、アルゴリズムそのもの、材料特性の予測手法や探索プロセス、最終的に得られた材料組成など、研究開発の重点領域や技術戦略が反映されます。
このブログでは、この特許調査レポートに基づき、
3回に分けてMI特許情報から見える材料研究の新しい潮流を紹介します。
【第1回】MI特許の全体像
【第2回】材料別に見るMI(有機材料、無機材料、ゴム材料、金属材料、食品材料など)
【第3回】AIアルゴリズムで見るMI
◆ 2018年以降、MI関連特許は一気に加速
日本のMI特許出願は2016年に立ち上がり、2018年以後に急増しています。材料開発競争がグローバルに激化する中、従来は数年かかっていた新材料開発の期間が、MIの導入により半年以下に短縮される事例もあります。これは市場競争力の強化に直結します。

※出願から一年半の間は未公開のため、2024~2025年の件数は少なくなっています。
◆“順問題”から“逆問題”へチャレンジの動き
MIを適用する主な目的は、大きく2つに分かれます。
物性を予測する技術(順問題)
物性から材料を設計する技術(逆問題)
MIの適用・目的の時系列推移をみると、材料開発支援(順問題)の出願件数が2017年頃から先行して出願件数が急増していますが、その後、新規材料探索(逆問題)の比率が高まっていることが分かります。

順問題:まずは“できるところから効率化”
順問題は「この材料の組成を変えたら、硬度や耐熱性はどう変わるか?」を予測するアプローチです。従来の実験を ”AIで高速化する” フェーズが順問題です。
材料の組成・構造を入力 → 物性・特性を予測
既知データから因果関係をモデル化
既存材料の性能評価やスクリーニングを効率化
逆問題:次にねらうのは“新材料の創出”
逆問題は「目標の硬度や耐熱性を達成するには、どんな組成にすればよいのか?」という必要な材料の組成や構造を設計・探索するアプローチです。特性から構造を一意に決定するのは難しいのが現状ですが、製品開発のスピードが市場競争力を左右する時代においては、これからのMIの大きなチャレンジの一つです。
目標物性・特性を実現するために → 最適な材料組成・構造を設計・探索
新規材料の創出に直結
次回ブログ(第2回め)は「材料別に見るMI」を予定しています。有機材料、無機材料、ゴム材料、金属材料、食品材料など、様々な材料でMI適用の広がりが見えてきます。どうぞご期待ください。
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