マテリアルズインフォマティクス特許情報から見える、材料研究の新しい潮流 《第2回:材料別に見るMI》
- 橋本小百合
- 1 日前
- 読了時間: 5分

MI特許情報から見える、材料研究の新しい潮流を紹介する全3回のブログです。
【第1回】MI特許の全体像
【第2回】材料別に見るMI 👉今回
【第3回】AIアルゴリズムで見るMI
前回のブログでは、MI特許の全体像をご紹介しました(第1回:MI特許の全体像)
では、実際に、MIはどんな材料開発に使われているのでしょうか。有機材料や無機材料、金属、ゴムなど、対象とする材料によって、特性や構造が異なり、重視するポイントや適用するMI手法に違いが出るのではないでしょうか。今回は、特許情報から、材料別のMIを俯瞰してみましょう。
◆ 有機材料×マテリアルズインフォマティクスが急増
下記グラフは、材料別のMI特許情報について、出願年別の件数推移を示したものです。全体として2018年頃から出願件数が増加していますが、その中でも、2020年以降は有機材料に関する出願が顕著に増加しています。このことから、近年のMI技術の進展は、有機材料分野が牽引している様子がうかがえます。なお、特定の材料を限定しない、汎用的なMI特許も全体の約1割を占めています。

※出願から一年半の間は未公開のため、2024~2025年の件数は少なくなっています。
◆ MI特許情報に見る、課題と効果
MIが適用される材料は、有機材料、無機材料、金属、ゴムなど多岐にわたります。材料ごとに特性や構造が異なるため、直面する課題や、MIに期待される効果にも違いが現れます。そこで本調査では、材料別のMI特許情報において、「従来技術の課題」と「MI適用による効果」に着目しました。
具体的には、材料ごとの特許には、以下のような記載が見られます。
有機材料:「従来は分子設計空間が膨大で最適設計が困難…」
無機材料:「非化学量論組成により構造表現が複雑…」
金属材料:「多元系合金で実験評価に時間とコストがかかる…」
ゴム材料:「配合情報が複雑で経験則に依存…」 など
これらを基に、「どの材料で」「何がボトルネックとなっており」「MIがどのように貢献しているのか」を整理しました。なお、特許情報だけでは読み取りにくい点については、公開されている技術文献やMI研究で指摘されている課題(例:データ不足、特徴量設計の難しさ)も参考にし、材料別に反映しています。
従来技術の課題 | MI適用による効果 | |
有機材料 | ・分子構造が多様で特徴量設計が困難 ・高分子の配向 ・分子量分布のばらつき ・長期劣化データが不足 | ・分子構造から物性を高速予測 ・高分子の組成 ・添加剤最適化 ・有機半導体の効率予測向上 |
無機材料 | ・結晶構造・欠陥構造複雑でデータ標準化困難 ・DFT計算データの蓄積に時間がかかる ・非化学量論組成の扱いが難しい | ・新規組成探索の高速化 ・破壊靭性・熱伝導率等実験困難物性の推定 ・焼成条件との最適組み合わせ設計 |
金属材料 | ・多元系合金で探索空間が膨大 ・熱処理などプロセスに依存しデータ整備困難 ・プロセス条件が詳細に記載されない | ・多成分合金の組成最適化 ・強度・延性・疲労寿命の同時最適化 ・熱処理条件と微細組織の予測 |
磁性材料 | ・磁気特性が微細組織や温度に依存し、データ取得が難しい ・多条件データが不足 | ・保磁力・磁束密度の予測モデル精度向上 ・希土類削減や代替材料探索の加速 ・粒界構造や焼結条件の最適化 |
石油・石炭材料 | ・原料組成が複雑で定量化が難しい ・カーボン材料の層構造 ・欠陥の表現が標準化されていない | ・原料組成—物性相関の抽出 ・細孔構造の解析・最適化 ・プロセスに起因する特性変動の予測 |
ゴム材料 | ・配合系が複雑でデータ整備が困難 ・劣化・疲労など経時データが不足 ・粘弾性の表現がMLと合わない場合あり | ・配合比と物性の最適化 ・充填材パラメータによる物性推定 ・加硫条件と性能の最適化 |
食品材料 | ・官能評価など主観データを扱いにくい ・ロット差が大きく再現性が低い ・加工プロセスにより物性変化が複雑 | ・成分—官能特性のモデル化 ・品質変化の予測(保存・輸送) ・代替食品素材の機能性評価の効率化 |
ここで、MI特許情報の具体例として、有機材料分野の事例をご紹介します。
◆ 実験データが乏しい領域でも、超広域材料探索を可能にする予測モデル
この発明は、材料探索における予測モデル構築システムに関するものです。従来の機械学習を用いた材料探索では、学術文献などの既存データを教師データとして用いることが一般的でした。しかし、これらのデータは市場や研究者の関心が高い領域に偏在しやすく、その結果、モデルにバイアスが生じ、「未知の領域」や「前人未到の領域」に対する予測精度が低下するという課題がありました。
この発明では、こうした従来知見によるバイアスを排除した条件で、物質の特徴量から性能を高精度に予測する回帰モデルを構築します。これにより、実験データが比較的少ない分野であっても、網羅的なハイスループットスクリーニングが可能となり、有用材料の探索を効率的に加速させることを目的としています。

いかがでしたでしょうか。特許情報には、最先端の技術開発動向や、研究開発の着眼点が凝縮されています。このブログが、皆様の研究開発戦略や知財戦略を検討する際の参考になれば幸いです。 次回は【第3回:AIアルゴリズムで見るMI】をお届けする予定です。どうぞお楽しみに。
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