《前編》では、技術マーケティング観点での特許情報活用 “作る技術”と“使う技術”を紹介しました。《後編》では、特許情報を活用した用途探索の具体的な作業プロセスをお伝えします。留意していただきたいのは、このプロセスは知財部門単独で行う特許情報分析ではなく、研究開発部門と連携して行うプロセスだということです。特許情報を創造の刺激情報として活用し、特許情報に表れる多様な考え方の要点をカード化した「特許カード」を用いたグループワークを行います。実験室で行う研究開発とは異なり、机上の知的な研究活動、思考をシェイクするブレーンストーミングです。
既存の要素の新しい組み合わせ
皆さんは、新事業企画の立案や新しいアイディアを生み出すために、一度はブレーンストーミングを経験したことがあるのではないでしょうか。しかし、何もないところからアイディアを生み出すのは大変です。自分の頭でアイディア思い付くのは限界があり、思考を刺激するキッカケが必要です。
「アイディアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない(ジェームス・W・ヤング)」とあるように、既存の要素の新しい組み合わせは、同じ領域や業界の中では生まれにくいものです。自社技術を新しい用途に展開したいと思っても、自社の既存技術や関連業界を見ているだけでは、過去の経験や業界常識にとらわれてしまいがちです。また、新しい市場に関する特許情報を調査して穴が開いている領域を見つけたとしても、その領域はビジネスのうまみが無いから誰も特許出願をしていないのかもしれません。
特許情報を創造の刺激情報として活用する際の重要なポイントは、意図的に既存の要素の組み合わせをずらし、新しい組み合わせを引きずり出すことです。特許情報は、全産業・全技術をカバーし、情報の項目・形式が整っており、様々な観点で分野横断的に自在に抽出できる知恵のデータベースです。これを創造の刺激情報の抽出に活用しない手はありません。その意味では、従来の特許検索と、創造の刺激情報として活用する探索的調査とでは、考え方が全く異なります(探索的調査の特許検索の考え方は後述します)。
異質な人からの刺激、即興によるひらめき
ブレーンストーミングで使う特許情報を意図的にずらすだけでなく、人の組み合わせも敢えて変えます。同じ専門分野の人同士では、同じような思考に陥りがちですが、異分野の人がいることで、違う視点で考えるキッカケになります。また、技術者だけではなく、営業担当者に参加してもらうと、顧客に近い立場からの意見も取り入れることができます。男性だけでなく、女性が参加することも有用です。多様性(ダイバーシティ)が広がります。
即興性も重要な要素です。いくら時間をかけても、いい考えは生まれません。時間を決めて、短時間で、焦点を変えて、何回か繰り返すことをお勧めします。即興性という意味では、ジャズのライブと似ているかもしれません。ブレーンストーミングを進行するファシリテーション役がいると、より即興性が高まります。
3つのステップ
例えば、ゴム材料(天然ゴム、合成ゴム)を開発しているA社が、医療・ヘルスケア分野への参入を検討するケースを想定してみます。3つのステップで進めていきます。
1.自社技術の技術的特徴の洗い出し
2.特許情報の探索的調査
3.自社技術の用途展開の検討
1.自社技術の技術的特徴の洗い出し
まず、自社技術の技術的特徴の洗い出しを行います。探索的調査では、自社技術そのものではなく、自社技術の“特性”や“機能”に着目します。なぜなら、A社の潜在顧客はゴム材料そのものを「作る技術」が欲しいのではなく、ゴム材料を含めた、力を加えると変形し力を除くと元の形に戻るソフトマテリアルを医療分野に適用する「使う技術」を考えているからです。
“特性”や“機能”に着目して、特許情報を見てみましょう。特許請求の範囲(クレーム)には、発明を受けようとする発明の構成を記載するので、クレームからは“特性”や“機能”はわかりません。それよりも、明細書の詳細な説明の記載の中で、その構成を用いることによる作用や効果を記載している箇所が役に立ちます。例えば、ゴム材料の場合は、弾力性、柔軟性、潤滑性、耐圧力性、圧力分散、衝撃緩和、密封、潤滑、滑らかさなどが浮かび上がるでしょう。このような特許情報からの“特性”や“機能”を抽出した上で、技術者とディスカッションするのも良いです。
2.特許情報の探索的調査
次に、技術的特徴(特性、機能)を軸とした特許検索を行います。通常の特許検索とは異なり、創造の刺激情報を抽出するための探索的な特許検索を行います。
下図の左側は通常の特許検索の考え方です。通常の特許検索では、調査対象技術の特定要件を設定し、AND、OR、NOTの論理演算式で組み立てていきます。例えば、「人工知能技術を用いた医療画像診断技術」の場合は、「人工知能」、「医療」、「画像」の3つの要件のAND論理式となります(それぞれの要件で、特許分類や関連用語を用います)。
これに対して、下図の右側は探索的な特許検索のイメージです。技術的特徴(特性、機能)と、適用したい用途(医療・ヘルスケア)の組み合わせを検討します。検索に使用する用語は、同義語、類義語、上位概念等を用いて狭めたり広げたりします。特許分類も適宜活用できます。狭くズバリの特許情報を検索すると、当たり前の内容になってしまいます。かといって、広げすぎると関係のない情報が多くなり、ぼやけてしまいます。何人かで組んで試行錯誤し、サンプリングしながら行うのが良いでしょう。また、議論の切り口や発想のキッカケになる面白そうな特許情報が含まれていればよく、漏れがあっても構いません。
3.自社技術の用途展開の検討
このようにして準備した特許情報を用いて、ブレーンストーミングを行います。特許情報を刺激情報として活用し、新たな用途展開や技術的な攻めのポイントを見出すためのグループワークです。特許情報は、そのままでは読みにくい、使いにくいので、手のひらサイズの1件1枚の特許カードにして使います。特許情報を読む際にも、当たり前のものは捨てて、参加者の関心のある情報、役に立ちそうな情報だけを残して、残った特許カードを用いてブレーンストーミングを行います。これを繰り返し、自社企業の技術的強みを活かした具体的な新規参入分野の検討を行います。
この一連のプロセスは、知財部門が新しい情報知財として活躍できる領域だと確信します。将来のビジネス創出に向け、未来を起点としたバックキャスティングの考え方で、特許情報を用いたアイディア創出プロジェクトを推進している、先進的な知財部門もあります。プロアクティブな特許情報活用を中心とした、攻めの知財活動への転換です。
ネオテクノロジーは特許情報を用いた創造活動支援ACTAS(Assistance of Creative Thinking And Solution)サービスを行っています。特許カードを用いた新規用途探索のためのブレーンストーミング支援「パテントエリアマップ」が好評です。技術者の視野を広げ、思考を柔軟にするための技術者研修にも最適です。ご関心のあるお客様は、ぜひお問い合わせください。
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